46 知られざる肋骨の重要性
[おことわり]
重要な記事を追加しています。ぜひご覧ください。
今回は、42 『クロールにおけるドローイン呼吸法』を読まれていない方のために、視点を変えて書き直しました。
1 足が浮く人、浮かない人の差は肋骨にあり
一般的に体脂肪率の高い人は苦労せず足先まで浮くことは出来ます。しかし、私のように体脂肪率10%を切る者にとっては浮くことは至難の技。過去の私は伏浮きをすると足が沈んでいた。
私のような人は、皮下脂肪という天然の浮く水着の浮力を利用出来ない為、肺の空気を味方につけるしかありません。
そこで、あることを意識してからは、完璧に伏浮きが出来るようになった。それが肋骨を広げる(肺を最大に膨らませる)ことだったんです。足を浮かすのには、この肋骨を意識して動かせるかどうかにかかっています。
え?なんで肋骨なの?それは・・
2 重心移動の本当の意味
伏浮きの姿勢を思い浮かべてみます。人間は、みぞおちに浮心(水面へ、つまり上に移動する力)があり、へそ下に重心(プール底へ、つまり下に移動する力)がある。この、浮心と重心の距離は、約15cm~20cm離れている。その為、回転力が生じ下半身は沈みます。
下半身が沈まないようにするには・・重心と浮心を近づけることです。そうなんです!重心を前に移動させるんです!
皆さんは、なぜ重心を前に移動させるのかについて深く考えたことがなかったと思いますが・・。
足を浮かせる為に重心を前に移動させるんです!
もう1つ、浮心を重心に近づける(浮心を後ろに移動する)ことも必要です。
肺というのは、下部に行く程容量が大きくなっています。そして底辺には横隔膜が存在する。大きく吸えば吸う程、横隔膜が下がる。見た目には下部肋骨が広がる。つまり、より下へ肺が広がります。浮心がバックするわけです。
3 肩甲骨と肋骨の深い関わり
クロールでは入水後グライド(腕を前に伸はすこと)しますが、これこそが足を浮かす手段なんですね。
グライド。とにかくこれを磨いてください。
試しに、気をつけ(後重心)で浮くのと、万歳(前重心)して浮くのとを比べてみると・・明らかに万歳したほうが足は沈みにくくなります。
クロールを泳ぐ時、足の沈下を防ぐには片腕が常に前方に伸びていることが最も重要です。
そのグライドですが、前方に伸ばす腕をより前につき出す程、足は浮いてきます。
この、腕を出来るだけ前につき出すには肩甲骨を前に突き出します。しかし、これだけではまだ足らない。肋骨も前に動かす必要がある。
わかりやすく言うと、脇の下を伸ばすということです。
肩甲骨と肋骨は筋肉を介して繋がっている。さらに肩甲骨は鎖骨を介し、胸骨と繋がっている。そして胸骨は肋骨と繋がっている。胸骨(肋骨)は肩甲骨の土台なんです。その土台ごと前へスライドしなければ肩甲骨はフルにつき出せないんです。
※土台のことを解剖学では胸郭(きょうかく)と呼ぶ。
私は肩甲骨だけでなく、肋骨も使って腕を前につき出しています。
そして、さらに前重心にするには、リカバリーアームをより前に構えること。すなわち、脇の下を伸ばすサメのポーズ(15記事参照)です。
さらにさらにですが、前に伸ばす腕は水面に平行ではなく、手先の下がったポジション、ななめ前方です(ゼロポジション)。
このサメのポーズが足を浮かす観点からして、いかに優れているかがよく解ります。
[補足]
視線はプール底に向けうなじをリラックスさせ(うなじを伸ばす)、頭を水面すれすれに沈めます。すると、これまた重心が前に移動します。
逆に、前を見るとうなじが力み、重心が後ろへ移動します。肩周りが固くなり、脇の下を伸ばすサメのポーズが難しくなります。
ついでに・・
年輩の方に多い悩みの一つ。
腕を頭上にまっすぐ上げられない!というのがあります。
原因として、猫背で肋骨が広げられないということが考えられる。
腕が上がらないならば、後述する万歳ドローインを習慣化することをぜひお勧めします。
4 水泳の呼吸と肋骨の関係
水泳の呼吸の基本は、吐く→吸う→止める。
止める理由は、肺をふくらましたままのほうが体は浮くからです。特にゆっくり泳ぐと、止めることの重要性がさらに増します。
息つぎで構を向いても口が水面上に出ず苦しいという方は、間違いなく浮き袋(肺)が小さくなっています。水中で息を吐いてしまっているか、息つぎで息が少ししか吸えていないかのどちらかです。肺がしぼめば、浮力は小さくなり下半身どころか、上半身まで沈むんです。ですから、浮き袋は常に膨らましたままで泳ぎます。
でも、息を止めると苦しいんだけど?
それは・・肋骨を引き上げる(広げる)ことが身についていないから。息をこらえて(肋骨を下げて)しまってるんです。
皆さんは肋骨の上げ下げが出来ますか?女性ならば呼吸と同時に肋骨も上下に動くはずです(胸式呼吸)。しかし男性は・・お腹が膨らんだり凹んだりするでしょう(腹式呼吸)。肋骨がほとんど動いていないんです。正確に言うと、肋骨を広げることが出来ていない。これが息を止めると苦しくなる根本的な原因です。
また、息が少ししか吸えない理由ですが、吐いていないから吸えないということが多々あります。
吐く→吸う→止める。の一番最初のステップです。
吐くのは吸う直前です。顔が横を向く時に強く吐きます。その反動で吸います。
吸った直後は必ず止める。この止めるクセはつけたほうがいい。特にグライドバタフライで生きてきます。また、腹圧を入れる為にも。
もう一つ、ここが重要なんですが、吸う時は肋骨下部を広げて吸うこと。肺に瞬間的に空気を取り入れるには肋骨の手助けがないと、まず大きく吸えません。
呼吸を助ける骨です。
くり返しになりますが、肋骨を広げて吸うことがとても大切です。
5 腹圧について
腹圧はなぜ必要なのか?皆さんは考えたことはありますか?
クロールは体の中心軸を回転軸にローリングします。この軸がブレないように腹圧を入れるんです。
また、腹圧を入れずに泳ぐとキックの力が上半身にうまく伝わらない。キャッチ後のプルも力が入らない。そして、キックなしでクロールを泳ぐと腰から下が大きくブレます。腹圧は骨盤をしっかり固定する為に必要なんですね。また、息を吐く時にも。そしてもう一つ。足を浮かせる為にも必要なんです。
ひとつ書き忘れていたことがあります。
実は、肋骨を広げて腹圧を入れると、内蔵が上方へ移動するんです!
腹圧の要である腹横筋は、内蔵を上方へもち上げる働きをするんですね。
さらに重心が前に移動するんです!
だ か ら 足が浮くんです。
蛇足ですが、特に背浮きや背泳ぎをする時は腹圧を入れないと必ず足が下がります。違う見方をすると、これこそ腹圧を入れる訓練になります。背浮きも併せて練習されることをぜひお勧めします。↓
さて、クロールというものは、グライドで体を伸ばして(腹筋を伸ばして)泳ぐスタイルです。通常の力の入れ方(腹直筋を収縮させる)では、とても腹圧が入りにくい。そこでドローインの登場です。
↑腹圧を入れるとまっすぐなストリームラインになる。
↑腹圧を入れると足は浮く。
腹圧を入れるには・・お腹を凹ますというより、下腹部を締める必要があります。
ドローインとは、下腹部を絞る行為です。
見た目には、お腹が凹んでいます。
余談ですが、腹圧を正しく理解していない指導者をよく見受けます。特に下腹部の扱いを誤って教えている人がいます。
下腹部は常時締めたままにするのが正しいやり方です。少なくとも水泳でのドローインは下腹部が膨らむことはありません!
え?ドローインはどの記事を見ても、お腹を膨らまして息を吸い、お腹を凹まして吐くと書いてあるよ?
これは肋骨の下がった単なる腹式呼吸です。ドローインは、肋骨を広げたまま腹式呼吸をします。
また、呼吸を止めてはいけません!というのは腹圧を目的としていない、つまり、呼吸そのものを目的としているからです。『呼吸法』として紹介しているに過ぎないんですね。そうでなければ、腹圧を正しく理解していないということになります。
腹圧がかかるのは息を止めている間だけです。
このことをしっかり頭に入れて下さい。
著名な指導者でさえ理解していないのは、いったいどういうことでしょうか?これでは混乱を招くのも当然です。
もうひとつ。これもよく誤解されますが、逆腹式(丹田)呼吸とドローインは似て非なるものです。逆腹式は武道でよく使いますが、吸う時は同じでも、吐く時は下腹部を膨らまします。これは、内蔵を(重心を)下げる意図があります。先程も述べましたが、水泳の場合重心は上げます。だから、常に下腹部を締めるんですね。これがドローインです。
というわけで・・
ドローインは、腹圧の観点、呼吸の観点,足を浮かす観点のいずれからしても理想的な体の扱い方です。
※49、53記事にも腹圧の話が書かれています。併せてご覧ください。
6 ドローインの実際
ここでは、私が実際に行っている万歳ドローインについてお話します。
通常のドローインはお腹を凹ますことのみに意識を持ちますが、ここでは肋骨を広げることを意識します。
なぜかと言うと、お腹を意識しすぎると上腹部に余計な力が入り、お腹全体を固めてしまうからです。あくまで下腹部を絞るんです。
そして・・下腹部を絞るには
肋骨を広げないとまず出来ません!
では、初歩的な練習方法ですが、まず床に仰向けになり、膝を立てます。
そして、08でも紹介したように、
『万歳しながら』息を吸います。
この『万歳しながら』がポイントです。
言い変えれば『脇の下を伸ばしながら』息を吸うということ。
※肩が固い人は無理して手先を床につけないように!つけようとすると腰が反ります。腰が反るということは、下部肋骨を下げる方向に力むことを意味します。すると、肋骨全体が固まって動かなくなります。
お腹を膨らまし、お腹に息を入れるのではなく、
胸の方へ目一杯息を入れて下さい。
※上達するにつれ、脇や背中側に息を入れるようになります。
すると肋骨が腕に引っ張られて上方へ移動します。(広がります。)この時、お腹はどうなりますか?たるんでいたお腹が引き伸ばされて若干凹みますよね?これは肋骨が広げられた証拠です。肋骨がお腹を引き伸ばすんです。
そして息を止める。
すると自然に下腹部(腹横筋)に力が入る。また腹横筋は背筋と繋がっているので背筋にも力が入る。
脇の下を伸ばし、息を止めることにより腹筋と背筋(あくまで腹横筋、多裂筋といったインナーマッスルのこと。腹直筋、脊柱起立筋といったアウターマツスルではない)両方が締まるんですね。自前のコルセットになる。これが伏浮きやスイム時のスタイルです。
そして肋骨を広げたまま(脇の下を伸ばしたまま)お腹を絞り息を吐く。
すると・・お腹はさらに凹みます。吐いたら再び吸って止めます。
吸う時も下腹部は力が入っています。
吸う時は上腹部を膨らまします。→正確に言うと、肋骨下部を広げるということ。
これをくり返すごとに、次第に下腹部が引き締まってきます。
慣れてきたら、立てていた膝を伸ばし、ストリームラインの姿勢になります。
そして、手先足先方向に細長く体を引き伸ばすように意識します。
呼吸は、
吐く→吸う→止める。
これが腹圧を重要視した呼吸の流れです。
※ドローイン呼吸がどうしてもわからない人は、(ぶら下がり健康器や鉄棒あるいはうんていに)ぶら下がって実践されることをお勧めします。自重により、体を強制的に引き伸ばせば、必然的にドローイン呼吸になります。
ちなみに、万歳ドローインでは肺の空気を完全に出しきることは出来ない。でも実はこれがミソ。実際に泳ぐ時、肋骨を下げて完全に吐ききってしまうと、肺を元の大きさに膨らますのがとても大変です。息つぎは短時間です。肺を満タンにすることが出来なくなる。先程述べたように、顔が水没した息つぎに陥りやすいんですね。
もう1つ。息を完全に吐き切ると重心がかなり後ろに移動します。
よく誤解されますが、肋骨は意識して上下させるものではない。(胸式ではない。)
広げっぱなしにするんです!
肋骨が下がる動きは、強く吐いた結果として生じるにすぎないんですね。あくまで、お腹を絞って息を吐く。これが水泳の呼吸の自然なやり方です。
くり返しますが、腹圧を入れる(下腹部を絞る)には、肋骨を広げっぱなしにするんです!これが正しい腹圧のかけ方です。
腹圧に慣れていない人は、常に腹圧を入れるのは騅しいものがあります。
しかし、万歳し、肋骨を広げることにより、お腹を意識しなくとも自然に腹圧は入るようになります。
くといようですが、
肋骨を広げる(浮き袋を広げる)とは体を伸ばすということ。
だからクロールを泳いでも沈む局面がないんです。これが私の行っているドローインです。
万歳して肋骨を広げると、肩甲骨がより前に出しやすくなり、(腕がより前方に伸び)、前重心になる。
また、腹圧で腰は結果として平らになり(注:意識して平らにするのではない!意識して平らにしようとすると体がくの字に曲がります。また、お腹を凹ます!と意識しても同じことが起きることがあります。私も凹ますという言葉を過去に使っていたが、あまりにも誤解される為、絞ると言うことにしました)、内蔵も前へ移動し、その結果下半身が浮くんです。
※息をこらえると、肋骨を下げる方向に力が入る。いわゆるプレスです。これが*体を縮める、体を固める(『体を締める』とは違う!くわしくは53記事参照)ということです。これは、間違った腹圧のかけ方。特に血圧の高めな熟年スイマーは
絶対にやらないように!!
[補足]
肺の空気は100%入れ換える必要は全くありません。50%で十分です。
肋骨を上下させず広げたまま、腹式(横隔膜=上腹部)で出し入れします。
ついでに・・
伏浮きやスイムで前を見て背中を反らす方をよく見かけます。お腹がぼっこり出た姿勢です。つまり、腹圧が入っていないんですね。確かに見かけ上は足は浮いています。しかし、重心はむしろ後ろに移動している。なぜなら、頭部が後ろに位置するからです。下を見て、うなじを伸ばした方が重心は前に移動します。それに、この姿勢だと肩甲骨がスムーズに動きません。また、左右方向の安定性に欠ける上、背中を反らす為腰を痛めます。あくまでお腹もフラットな(むしろ凹んだ)ストリームラインが水泳における基本姿勢です。
肋骨にまつわるお話、いかがでしたか?