キックなしでもクロールは泳げる!

医療従事者が水泳の常識にメスを入れていきます。

54 意外と知らないグライドの秘密

まさか、エピローグ投稿後に筆をとることになろうとは・・今回のテーマはグライド。あなたは、グライドの意味を本当に理解しているだろうか?

私が思うに、グライドはストロークにおいて、最重要項目である。なぜなら、水泳は『水を前に押して進む』行為だからだ。バウウェーブ(船首波)が生じることからも明らかである。その『前に水を押す』局面がグライドである。このことを踏まえた上で読み進めて頂きたい。

 

 

 

 グライドとは、手の入水後(肋骨を広げて)前に腕を伸ばす行為だ。クロールの場合は、片手万歳である。

グライドがなぜ重要なのか?それは・・プルがラクになるからだ。ラクに速く泳ぐには、グライドがどうしても必要になる。

 

??

 

その前に・・ 

水泳における抵抗の最も少ない姿勢とは、前後に細長いストリーム形状である。わかりやすく言えば、万歳して伸ぴをするということ。腕を万歳すれば体は身長以上に長くなる。泳ぎの上手い人を見れば、肩からグーンと腕が前に突き出ており、体がよく伸びているだろう。

 

クロールは、2本のレール上を、片手万歳の姿勢にて重心を左右交互に切り替える泳法だ。

 

※よく誤解されるが、両手万歳の伏し浮きとは違う。いわゆるキャッチアップクロールというのは両手を前で揃える為、両肩を結んだラインが水面に平行になる。その為、横幅が広くなり抵抗が増す。

 

 

速いクロールの基本姿勢は、片手万歳、ななめの姿勢。

 

片方の肩が水上に出た状態だ。すると横幅が狭くなる。これがグライドの姿勢だ。TIスイムでいうスケーティングである。その名の示すとおり、スケート靴の刃のように体の側面を細長く伸ばす。

 この片手万歳が水面において最も抵抗の少ない姿勢である。※両手万歳のストリームラインは、水中において最も抵抗の少ない姿勢だ。誤解のないように。

 

ちょっと待った!あんた、(両手万歳の)伏し浮きをよく薦めているではないか!伏し浮きが基本姿勢だと言ったじゃないか!

 

その通りである。伏し浮き(背泳ぎは背浮き)は4泳法全ての基本である。伏し浮きの目的は、体を伸ばす(=背骨をまっすぐにし、肋骨を広げる)ことを学習する為。これを正しく行えば足を浮かすことができる。

ひとつ書き忘れていたが、うなじを伸ばすことを忘れないように!うなじが縮むと胸も同時に縮む。要するにねこ背の状態だ。すると、みぞおちが落ち込み、胸で水を前に押せなくなる。

 

さらに・・伏し浮きは軸を作る行為でもある。

クロールというのは、背骨を軸とし、その軸を中心にローリングする。

 

ちょうど、みたらし団子の串が頭のてっぺんから刺さっていると思えばよい。この背骨という軸が曲がっていては、抵抗が大きくなり、ラクに泳げないのである。

 

※※背骨の補足

ストリームライン時の背骨は、立位同様緩いS字である。これが自然だ。これを姿勢上でのナチュラルポジションと言う。具体的には、壁に背面をつけた時、うなじと腰の後ろに少しスキマが空くことである。腰や背中は決してまっ平らにはならない。

水泳の都市伝説に背面をスキマなくまっ平らに!があるが、これは、トップスピードで泳ぐ選手の結果だけを真似たものである。

そもそも、選手はなぜそうなるのか?胸を張り、お腹を引っこめたょうに見えるのは、前からぶつかってくる水の抵抗に負けない為の力を使っているからである。水を一生懸命前に押しているのである。一般人には、そこまでの抵抗に耐える程力を使う必要がない。緩いS字で十分である。

 

背骨をまっすぐに!(これを軸という。軸とは意識である。背骨そのものの形状ではない。ただし、軸と言っても厳密には、串や縫い針のように固い物ではなく、鍼師が一般的に使用する毫鍼のごとく、しなやかにたわみ、すぐ復元するようなものである。特にバタフライではその意識が強い)とは、反りすぎず、丸くなりすぎず、自然にまっすぐということだ。いつも背中が丸くなる人は、ドローインで肋骨を広げ、胸を張りぎみにしたほうがいいし、いつも反っている人は背中をリラックスしたほうがいい。本によって真逆の理論になるのも仕方のないことだ。人間の背骨を解剖学の本でよく観察してほしい。これから外れた背骨のラインを持つ人は、立位にて個別に模索してほしい。

 

 

話を話を戻そう。 

では、私から質問。初心者がいきなり、ななめの姿勢で浮くことが出来るだろうか?これこそ100%不可能だろう。なにしろ、軸という意識が皆無だからだ。まずは簡単な両手万歳の伏し浮きからスタートする。ここで軸及ぴ足を浮かすことを学習してから片手万歳にトライするのである。 

 

 

グライド。この行為は、前重心を作るつまり、足を浮かす行為でもある。  

 そして、前に伸ばす手の方向いかんで軸のブレ、ロール角度も変化する。従来よく、キックが舵取りの役目をすると言われたが、本来の舵取りは、先端の手が担っていることを忘れてはならない。

 

さらにグライドは、安定したリカバリーを行う為にも重要だ。

51記事のジッパーが良い例だが、右腕がリカバリー中は、左腕はグライド(静止)している。スケート靴の刃のように、体の左側面を手先から足先までしっかり伸ばす。これがクロールの土台である。土台がブレずしっかりしているから、リカバリーや息継ぎも安定するのである。

 

  

 

そして・・従来の概念にはなかったこの秘密・・

グライドは、体幹の回転を生じさせる。

サメのポーズから、入水する側の腕を水中へ伸ばすと、それだけで推進カが生じるが・・そう、惰性のカだ。これが、私の泳ぎのメイン推進カであり、初動負荷型プルの根源である。↓

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29880364

 

その入水した腕に引っ張られて、体幹も回転するのである。グライドするとプルがラクになるのは、惰性により体が前に移動するからである。だから、プルに力は必要ないのだ。私がグライドを重要視するのはこうした理由からである。

 

ところで市販の教本には、グライドの役割に関する記述が未だ見られない。一部でようやく惰性のカについて触れるようになった程度である。

あなたも、グライドの重要性に早く気付いてほしい。

 

 

さて・・

 プールでよく見かけるスイマー。よく見ると、ローリングをほとんどしていない。というより、ローリングできない。その原因の1つは、水面に手先をキープするからである。これは、一般のスイミングスクールの定番、キャッチアップクロールが関係している。

 

よくよく考えてほしい。ローリング時は、腕を伸ばす側の肩が水面下に沈み、もう他方の肩が水面上に出る。(※背骨という軸は動かない。つまりブレない。)肩と肩を結んだラインは、前から見ると水面に対しななめになる。前に伸ばす腕は、その沈んだ肩より上にあるのは不自然だと思わないだろうか?

入水後は、必ず水面下20cmくらいに伸ばすこと。

え?だって選手は、手先が水面に位置してるよ?揚力を使うほうが浮くんでしょ?

選手は体が柔らかいからね。しかもそれは、とても高度な技術だよ。手先を水面にキープすると、私でさえ足が沈む。  というわけで、肩や胸郭(肋骨)が固い大人は、水面に手をキープするという考えは捨てたほうがよいだろう。

 

 

 

 

少々脱線するが、よく入水は前方遠くへ!と言われないだろうか?

これは、入水が近すぎるからというのが理由だが、ここで大人の泳ぎのメカニズムを理解しないと、大変苦労することになる。

大人は肩関節が固いのが常だろう。この為、頭上中心軸に向かって万歳しようにも完全に肘を伸ばせない(肘を伸ばせばYの字万歳になる)。

だ か ら入水が近くなるのだが・・このような人が遠くに入水するよう指導されたらどうなるだろうか?もともとロール角度が小さいのに、さらに平らになりながら入水することになる。入水が完了する前に肘が伸びるため、ローリングする勢いがなくなる。そして入水後、今度は肘が曲がり落ちてしまい、グライド出来ず水を下へ押さえてしまう。そして・・肘から引いてしまう。やはり、手先を水面にキープしようとするからだ。結果足が沈む。

 

そもそも、肩が固い大人は、エルボーアップをキープして遠くへ入水、また入水後腕を水面に平行に伸ばすことなど不可能なのだ。

これを解決すべく、TI方式の入水(手前入水、ななめ前方へ伸ばす=ゼロポジション型)を行うのである。サメのポーズから水中へ入水し、そこから初めて肘を伸ばしながらななめ前方へ突き出していく(※水面に手をキープしようとすると肘が必ず落ちるので注意)このように、TIの入水及びグライドは、大人のためには理にかなっているのである。

前方遠くへ入水!というのは、体が柔らかい人向けなのであり、大人の特性が考慮されていない。それを言うのなら、ストレートアームクロールを教えたほうがよっぽと理にかなっている。

 

 

さらに・・ゆっくりテンポで泳げばよくわかるのだが、手をしっかり前に伸ばさないと、ストローク数がとても増加する。理由は簡単だ。抵抗が大きく、惰性で進めないからである。

私の泳ぎが滑るように見えるのは、腕をしっかり前に伸ばし、抵抗を最少化しているからだ。だからゆっくりに見えても速いのである。

 

 

さて、グライド。腕を伸ぱす。

 この行為は奥がとても深い。ただ単に腕を伸ばすだけでは、本当の意味がわからない。

 よく似た行為に、板キックがある。しかし、ビート板の上に腕を伸ばすことと、グライドは根本が違う。詳しいことは14記事に追加するのでそちらを参照されたい。

また、自称TIスイマーに多い誤解の1つに、腕の伸ばし方がある。そもそもTIは、なぜ水中深く斜め前方に腕を伸ばすのか?これは、伏し浮き(もちろん静止)して足を浮かせることが出来ない人が、手っ取り早く足を浮かせる為だ。理屈は12、13の動画でも説明している。しかしこれは、ある程度の泳速があるから可能なのであり、超ゆっくり泳ぐと足は浮かない。時々、タランチュラのように泳いでいる人を見受けるが、例外なく足が沈んでいる。

では・・泳速を上げずに足を浮かすにはどうするか?

 

 

それは、体の側面を伸ばしきることである。

腕の角度は斜めでも、その腕を肩ごと前へ突き出すということは忘れないことだ。

手の平側、つまり下へ下へ!押さえるのではなく、手の甲側で水を前へ前へ!押すのである。要は、水に体を支えてもらうということだ。

そして、先に述べたように、うなじも伸ばすこと。頭頂部を、これもまた前へ前へ!突き出すのだ。要は、頭部も使って重心を前に移動させるのである。

逆に、うなじに力が入ると頸椎の前湾が大きくなる(縮こまる)。つまり、重心が後ろへ移動する。前を見たり、大きくロを開けて呼吸すると必ず力むので注意。 

意識1つでも全く違ってくるので、ご注意願いたい。

 

  

 

ローリングできないもう1つの原因も同じく・・

伸びが中途半端で、肩が前に突き出ていないことにある。だから、体が水平になる。もうひと伸びが足らないのだ。もうひと伸びするには、脇の下を伸ばす意識が必要だろう。

 

肘を伸ばし、脇の下を伸ばしきることにより、初めて体幹は回転する。

体幹の回転については追記参照)

 

 

  脇の下を伸ぱすと肋骨が広がり肩がより前に出る(前重心になる)。そして、お腹が肋骨によって伸ばされ、腹圧が入りやすくなる。肋骨が広がれば、息を止めても苦しくならなくなる。そして、手先からお腹にかけて皮膚のたるみがなくなる。つまり、抵抗が少なくなるのだ。

 

 

 

 

そして・・脇の下を伸ばせば、大胸筋と広背筋が引き伸ばされる。引き伸ばされた筋肉は、輪ゴムのように弾力がある為、縮もうとする。その縮もうとする力を利用してプルするのだ。

 

マイケルフェルプス選手や萩野公介選手のストロークを真下から見ると・・グーンと伸び、ひと呼吸おいてプルしている。広背筋がよく伸ばされ、その弾力でプルされているのがわかるだろう。

 

筋肉を緩めると最大にバワーが出せる。これは47記事で述べたが、その究極が筋肉を晟大に引き伸ばすということ。彼らの強力なプルは、グーンと腕を前に伸ばすことで可能になるのだ。グライドなしにすぐキャッチするというのは、広背筋、大胸筋をフル活用していないことになる。

 

 グライドとはすなわち、プルの予備動作なのである。

 

 ラクに速くクロールを泳ぐ。それを実現するには、脇の下の広背筋を伸ばすグライドを磨くことである。

 

 

 

 

[追記]

推進力は体幹の回転より生まれる。これは本当なのだが・・誤って解釈されている人が多い。体幹の回転は、体幹(腰)の動きそのものからスタートするわけではない

TIの2ビートクロールも、キックを打ってから体幹が回転しだすわけではない。(TIスイムの説明では・・キックがきっかけで腰がまず回転し、腰の回転力が腕の入水に伝わるというように、伝達が下から上へとなっているが・・私は、この説明に関しては疑問である)

 

キックはあくまで回転の補助である。

 

 なぜそう言いきれるのか?それは・・

 

 

キックなしクロールでも体幹は回転するからだ。

キックなしクロールを泳げば、本当の伝達メカニズムが明らかになる

 

キックなしクロールの体幹の回転は、エントリーの構え(サメのポーズ)から、2本のレールの片側へ腕が伸ばされる過程で生じる。水上に構えた腕は重みがある。この位置エネルギーを利用して、水中へ肩ごと突き出すのである。もちろん、水上の肩は水面下に移動する。すると反対側の肩が水面上に出る。それにつられ腰も回転する。この回転は一瞬の出来事だ。両肩が水平になる局面は皆無である。

先に述べたキャッチアップクロールは、両肩が水平になる局面が長くなり(つまり抵抗が増す)、テンポが上がらなくなる。だ か ら速く泳げない。

テンポを上げるには、両肩水平姿勢(両手万歳)を止めることが先決だ。

 

ついでに、

両肩水平姿勢を土台にすると、頭が左右にブレやすくなる。それは、頭部と体幹の分離が難しく、ストロークに頭が引きずられるからだ。要するに、体幹の回転という行為を理解していないのである。

私の頭がブレないのは、頭部と体幹の分離が完璧だからだ。軸を中心に、左右が入れ替わることを体が理解しているのだ。それは、スケーティング及びスイッチドリルを誰よりも多く練習したからである。

 

 脱線したが、

体幹の回転に合わせてプルすれば、結果として体が前に進む。つまり、ラクにプルできるのだ。惰性のカで滑る泳ぎになる。(言いかえれば、初動負荷型の泳ぎになる)このことは、11記事の動画をご覧になるとよく理解出来るだろう。これにキックが補助的に加わるのだ。

もう1つ。キックというのは、腰の回転が必ず先行する。上から下へ伝違する。↓

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29692263 

 

 

体幹の回転を生むきっかけは、キック(腰の回転)ではなく腕の落下という行為に内包される、重心の移動なのである。

重ねて言う。重心移動による回転カは、上半身から下半身へと伝達する。これが、私の実証したクロールの正体である。

 

注;入水後の肘を伸ばす勢いにて生じた、回転カ(型つまりフォームを生み出す体幹の動き)で推進するのがTiの特徴である。手足の細かいフォーム(形、つまり結果として表われる末端の動き)は人それぞれである。また、私にとってのTIとは、フォーム直しの取っ掛かりとしてTIドリルが存在するのであり、TIスイムのクロールは存在しない。なぜなら、1から10全てのままTIスイム理論でフォーム化していないからだ。身体の特徴に合わせ、個別にアレンジしている。10人居れば10通りのフォームがあるということだ。手足の形、つまり、結果だけを真似るのは、本当のTIではない、というより、水泳ではない。皆さんの誤解が解けることを願いたい)

 

 

また、カヤックさんが51記事コメントに、とても明快な解説を寄せて頂いているので引用させて頂く。

以下引用~ 『回転』の意識を完全に捨て、2本のレールの片側にのばす手だけに意識を向けたら、突如できるようになりました。片方の手を伸ばすことによって、左右の重心バランスが偏り、勝手に体が傾くのであって、(意識して)体を回転させようとするのではない、ということがわかりました。できてみると『体幹の回転力』の意味もよくわかりました。(ななめの姿勢にて)体幹を安定させることによって、この重心バランス(重心移動)によって勝手に生じたローリングの力が無意識のプルに勝手に伝わっているのだ~引用終わり

 

尚、スイム時のグライドは、実際はエントリーから水中へ伸ばす動作と一体であることに注意されたい。こうしたグライド技術を習得している体幹の回転カでプル出来ている)スイマーは、まだまだ数が少ない。グライドは、奥がとても深いのである。

 

では、

 

本当に最後になるが・・

『グライド』はとても重要だ。しかし一字違いの『プライド』は、とても水泳の上違の妨げになる。

私もそうだったが、水泳部に所属していたということが、変なプライドを生んでいた。

自分はうまい!と。

しかし他人から見れば、ただの三流、いや四流スイマーだ。私のプライドがもろくも崩れ去ったのは、自分の泳ぎをビデオに撮ってもらった時である。

悲しいかな・・大人は皆、自分の泳ぎをビデオで見ない限り、自分の欠点に気付くことは難しい。

 

 

皆さんは、私がここまで上達出来た本当の秘訣は何だと思うだろうか?

 

それはズバリ、プライドを捨てたからである。

プライドを捨て、初心者同様し浮きからやり直した・・

そしてグライドを徹底的に練習した。

だから今の私が存在するのである。